逃げない人



 河村:この間大好きな料理家さんと打ち合わせした時
    その人の話の進め方がめっちゃかっこよくて、
    あーみんなこの人に仕事頼みたくなるの
    すごい分かるって思って。


 松原:へえ!


 河村:予算の話とかもそうだけど、
    クライアントの求めてるものと自分ができることを
    きちんと、なんていうか落とし込む?感じ。
    すごい当たり前のことなんだけど。


 松原:わかる。


 河村:私は、打ち合わせがすごい苦手で。
    その条件じゃ無理なの分かってるのに、
    なんでちょっとカッコつけて
    「あ、できますよ〜」とか言ってしまうんだろうって。


 松原:すごくよくわかる(笑)。
    昨日も誰かとその話になったんだけど、
    例えば、いざクライアントと打ち合わせが始まって
    蓋開けてみたら、全然思ってた内容じゃなかった
    ってことが、たまにあるんだけど、
    (あー嫌だな、この方向で撮影が進むのは)とか
    (これだけはやりたくなかったのに。)とか思ったりしても
    たぶんその料理家さんみたいな人って、
    諦めないって言うか、逃げない。


 河村:逃げないよね。


 松原:すでにクライアント側の希望だけで固まりつつある流れを
    自分のできることに戻すことができる人ってすごいと思う。
    しかも笑顔でね。かっこいいよね。
    私は理論的に打ち合わせしたり、撮影のコンセプトや
    ページを作るとかが苦手で大変。
    今回もFLOWER magazineで「好きなお題出していいよ」
    と言われても全然、うまく伝えれなかった。
    仕事のやり方としては、現場の出たとこ勝負のほうが
    きっと向いてると思う。
    「松原さんの言ってた話が理解できなかったって、
    誰々さんが言ってたよ」って打ち合わせ終わった後で、
    言われることも多くて(苦笑)。
    言葉をきちんと使える人になりたい。


 河村:まっちゃんは無理でしょ。


 松原:そんな真顔で!ひどい〜(笑)。


 河村:(笑)いや、だってこのインタビューもね、
    正直あんまり向いてないかなって思いつつ声かけてて。


 松原:うーん。たぶん私は逃げたいのかも。
    言葉から。


 河村:うん、そうだよね。きっと。


 松原:でも憧れは常にあるんだよ。本も読んでるし。


 河村:そうそう!いつも会うと何か読んでて、
    それってすごいなって思ってた。
    でも一冊読んだらさ、その言葉入って来ない?


 松原:それがぜんぶ忘れるんだよね(笑)。全然入って来ない。
    他人は他人みたいな・・・。


 河村:干渉しない。


 松原:そう!干渉してない。


 河村:よく結婚できたね(笑)。
    結婚なんて一番他人と関わる行為やん。


 松原:そうそう。だからもう大変です(笑)。


 河村:でもね、真面目な話でごめん。
    FLOWER magazine SUN & SEAの時さ、
    撮影前日の夕方とかに環八沿いでいい場所見つけたって
    ラインが来たんだよね。
    車の販売店だったっぽい広いガラス張りの路面店が
    空き物件になってるところで、
    くすんだピンク色の床や大きな鏡と差し込む光が
    いいかもしれないって。


 松原:そうだったねー。


 河村:私が「誰に許可とればいいの?」とか言ってる間に
    不動産屋に連絡して交渉終わってて。
    次の日の朝菓子折り用意して大家さんに
    ご挨拶まで行ってくれた。


 松原:そうだったっけ?忘れちゃった。
    あ、電話で済まそうと思ったら、
    まず顔を見せるのが普通でしょーとか言われたの。


 河村:そうだったの!
    撮影してたら内装工事のおじさんが来て、
    何やってんだ、いつ終わるんだ?ってめっちゃ怒ってて。
    「許可は取ってあるんですけど。」とか言っても
    全然聞いてなくって。
    おじさんが睨みつけてる中、
    築地市場で仕入れてきた大きなスズキを
    クーラーボックスから取り出して
    ゴミ袋に入れたり、ガラス板に水かけて水滴作ったり。


 松原:怪しい撮影だっただろうね(笑)。


 河村:(笑)なんか学生の作品撮りみたいな1日だった。
    まっちゃんなんてもうこんなことしなくていい為に、
    今まで頑張ってきたのにって申し訳なくて。


 松原:迷惑だなんて全然思ってなかったよ。
    インディペンデントで雑誌作ろう!って40過ぎて
    言い出したとしえちゃんの情熱の場にいれたことが、
    嬉しかったし逆に感謝してた。
    

 河村:そこかも!何かを作ったり表現することにおいては
    絶対逃げないで向き合ってくれるところ。
    強さというかそれは愛なんだけど
    出会った20代の頃からそうだったし、
    私に対してだけじゃないのも知ってる。
    その強さにどれだけ周りの人が、
    刺激されてきたんだろうって思う。


 松原:そ、それは、大層な。




 ←BACK  TOP NEXT→05 気がつけば大人になってた